ビラーンの医療と自立を支える会(HANDS)

フィリピン青年がみたブラクール村
ジュネフェ・パヨット

 ミンダナオで育ち、島内をよく旅したので、この島をよく知っていると思っていた。ブラクールを
訪ねるまでは。ブラクールのチボリやマノボ民族と会って、まったく新しい世界が開かれた。歴
史の教科書でしか知らなかったミンダナオの一面をこの目で見た。

 でこぼこの埃っぽい道を車で行き、途中泥だらけの部分があり先へ進めず、予定の場所より
かなり手前で車を降りた。草原や森林、トウモロコシ畑の間を通り、山の中に学校が見えた時
は驚いた。更に歩き、家々が見え、着古した大きすぎるTシャツを着た子どもたちが遊んでいる
のを見た時は、アドベンチャー映画によくある、秘密の集落を発見したような気分だった。

 第一印象は、皆笑みを浮かべて歓待してくれたことだった。それと同時に、多彩な民族衣
装、美しい首飾りや髪飾りをつけていないことに失望した。教科書や写真集で得たイメージを
期待していたのだ。でも首長の奥さんと祈祷師がとても素敵なネックレスとイヤリングをしてい
るのを見、それらのアクセサリーに豊かな文化と伝統が込められているのを感じた。

 一泊だけだが、多くの事を学んだ。笑顔は幸せな満足した生活を反映していると思ったが、
夜ココナッツ酒を飲みながらの会話で、多くの問題を抱えている事がわかった。

経済問題
 一番の問題は生計を立てることの難しさだ。ほとんどの人がトウモロコシ栽培で収入を得て
おり、大体3千ペソだそうだ。種蒔きから収穫まで4ヶ月かかるので、月収750ペソにしかならな
い。家の中には、調理器具と食器以外にはほとんど何もなかった。僕はマニラの都市貧困問
題と関わっていて、マニラの貧困地域を訪ねたりするが、その人達に比べても、パヤタスのゴ
ミ捨て場を漁る人達よりも、物質的にもっと貧しいのに、驚いた。

根本的問題
 住民たちははっきりとは言及しなかったが、もっと深い根本的な問題があると推測できた。偏
見。これが発展の妨げなのだ。多くの人達、特に都市生活者にこの責任がある。僕にも責任
がある。肌が黒く、背が低く、山に住んでいる人は学校でからかわれた。僕もからかった一人
だ。でもそれはだいぶ前で、今は偏見の危険性とそれがどれだけ人を苦しめ、尊厳を傷つけ
ているかを理解している。
 しかし、偏見はいまだにある。先住民族の無知や劣等性を笑いの種にした多くのジョークが
あり、映画やテレビで偏見を助長している。更に問題なのは、先住民族に対して公的支援を行
わなければならない公務員が偏見を抱いていることだ。その結果、先住民族が開発援助の対
象にはならず、非先住民族が恩恵を受けているのだ。
 悲しいことは、先住民族が地理的に離れているだけでなく、社会的、経済的、政治的に孤立
していることだ。これを根絶するために、若い人たちに偏見の悪を伝えようと、自分に誓った。

誇り
 劣っていると思われているが為に搾取されていることに気がついてはいるが、先住民族とし
ての認識や文化への誇りを失っていない。日本人や他の人たちが学ぶべきことは何かと問う
た時、誇りをもって自らの文化、伝統保存へ力を注いでほしいとのことだった。
 教育に重きをおき、地域で学校を運営していることに誇りを持っている。学校は、若者に教育
を与えて、偏見と戦って地域を助けるためだけでなく、共通の目的をもって、地域共同体として
固く結びつける役目もしている。
 前に述べた、マニラの最貧困地域と比べて物質的な面で貧しいと書いたのはこの事だ。都市
住民には地域共同体の意識は無い。

希望
 笑顔は生活に満足しているからでなく、多くの問題を抱えているにも関わらず、希望をもって
いるからだとわかった。希望を持つことは、向上への第一歩だ。これがブラクールの人達から
学んだとても価値あることだ。
                                             (翻訳 相田陽子)

ジュネフェ・パヨットさん

アテネオ・デ・マニラ大学大学院生・日本語講師。ミンダナオ北部
カガヤン・デ・オロ市出身。立教大学大学院に1年間留学。都市
貧困者援助の為の弁護士志望。
当会の活動に興味を持ち、パートナーNGO活動地域訪問を希望
し、ブラクールに一泊しました。

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