ビラーンの医療と自立を支える会(HANDS)


現地報告 ビラーン通信44号より

3年間の給食プログラム・1年目−魚をあげる?魚の獲り方と網を支援する?−

 「児童の体重が確実に増えてきました。授業にも集中するようになりました。」ラムアフス小学
校のマリオ先生は、お皿を手に列に並ぶ子どもたちに目をやりながら、嬉しそうに報告してくれ
ました。

 松尾基金による校舎増築工事の進捗状況を見ようと1年ぶりに訪ねたラムブソンでは、週3
回の給食の日に当たっていて、私も薄い塩味のお粥給食を体験することができました。1人1
切れ鶏肉がいきわたるようにと当番のお母さんは注意深くお玉を使っていましたが、中にはい
くら粥をかき回しても肉の欠片さえ見つからなかった不運な子どももいたようです。

 1分足らずで胃袋に流し込める粥メニューのためか、大部分の子どもたちは校庭に立ったま
ま、あるいは校舎の建設資材に腰を下ろして給食を平らげました。ところが教室をのぞくと、バ
ナナの葉に山盛りのご飯を食べている子が3人、また校庭に隣接しているマリオ先生の家で
は、6年生の長女が同じくバナナの葉にくるんだご飯を食事中でした。この地域は年1回陸稲を
収穫できます。訪ねたのは端境期の11月でした。十分な農地(といってもすべて山腹斜面で
す)があり、米の備蓄が可能な家だけご飯の弁当を持たせたようです。

 お粥給食だけの子どもと、持参した弁当も食べる子どもがいることをここで問題にするつもり
はありません。みんなが給食実施を喜んでいるのを目の当たりにし、成果の報告を聞くほど
に、3年という期限付きにした給食事業の今後をどうするか、会の支援姿勢を早めに検討する
必要を感じました。

 「魚をあげるのでなく、魚を獲る手段の支援を」という会発足当時のCMBディレクター・ビト
イ神父の方針に賛同して、私たちは魚を与える事になる給食プログラム実施を見合わせてき
ました。例外は数年前の大干ばつ時の3ヶ月だけです。

 「魚を獲る手段の支援」とは、開発業者から先祖伝来の土地を守ろうという住民の組織化
を支えたり、校舎建設・教師の給与補填・奨学金による教育支援、アグロフォレストリーや現地
製品の販路拡大などです。

 いずれもすぐ成果が出るものではなく、今その成否を評価するのは早計ですが、住民の組織
化、特に組合育成についてはラムブソンを除いてうまくいっておりません。42号で紹介の元
HANDS奨学生スヌーリアのビラーン人によるビラーンの組合構想も見通しが甘く、すぐ支える
のはかえって弊害があるとの結論になりました。

 今年7 月に会は設立10周年を迎えます。これまで私たちは信頼できる現地組織に恵まれた
ため、その理念を共有することでよしとして、住民が望むのが「魚」なのか「網」なのかさえも確
かめずに活動を続けました。今後は現地組織との信頼関係を維持しつつ、直接住民の声を聞
き一緒に考える機会を増やしたいと思っています。幸いボランティアスタッフ相田さんが今現地
に滞在されていて(P4)、精力的に支援地域を歩いてその報告を事務局に届けてくれていま
す。近い将来の現地事務所開設に繋がることを期待しています。スタッフの現地派遣に関して
最大のネックだった治安問題も今のところ心配ないようです。この状況が続くことを願うととも
に、私たちの活動もミンダナオの平和構築に少しでも役立つことができればと思います。



村のリーダーを育てる奨学金制度の理念と実態
 −ミンダナオ子ども図書館の教育支援の事例を参考に−

 「卒業したらコミュニティーのために働きたい」。ハイスクール以上の奨学生採用条件は、将
来村の仲間のために働くこととしているため、選考時の面接では全員このように答えます。

 さらに、カレッジ及び専門学校を終了した卒業生は、1年間ボランティアとして(米とわずかな
手当が支給)村の教会行事や巡回診療の手伝い、教師助手などして働くことが義務付けられ
ています。しかし、山腹の小さな畑を耕しながらこの約束を履行できる卒業生は少なく、職を求
めて村を離れるケースが多いと聞きます。

 2004年巡回診療を実施した村で会ったマルチノもその一人です。車整備コース終了後有機
農法を勉強した彼は、自分の畑をモデル農場にして住民に指導したいという夢を語ってくれま
した。資金がないというので企画書を出してくれれば検討すると答えたのですが、11月にCMB
事務所で聞いた話では、すでに結婚して村を出たそうです。これまで送り出した大学卒業生10
名のうち、希望通りコミュニティーのために働いているのは、CMB小学校教師として採用された
ドリとメリアンだけです。

 教育を受けた若者が村に数人いれば、専門を生かして衛生・栄養や農業技術指導ができる
だろう。組合育成など住民の組織化にリーダーシップを発揮するだろう。私たちはそう考え、
CMBを通じてカレッジや専門学校進学を奨励してきました。まだ成果を云々するには早すぎま
すが、長期的ビジョンが必要な教育支援の場合、過去10年の人材育成支援を評価して方針の
再検討が必要かもしれません。

 「私たちは村のリーダーを育てようとは思っていません」。HANDS主催ミンダナオ報告会
(2005年10月開催)の講師として招聘した松居友氏は、ミンダナオ子ども図書館(MCL)の教育
支援についてこのように話されました。先住民族が主な対象という点で共通するところが多い
MCLのことをもっと知りたくて、今回訪問してきました。私たちの支援地域南コタバト州マーベ
ルの北方、車で2時間ぐらいの北コタバト州キダパワンにあります。

 MCLでは、貧しい子ども、虐げられている子ども、父母がいない子どもに高等教育の機会を
与え、生きる力と自信をつけさせるという方針です。政府軍の爆撃で避難生活を送ったピキット
のモロ民族の子どもたちなど、より厳しい境遇の子どもたちへの本の読み聞かせも活動に取り
入れていました。

 評判を聞いて北コタバト州だけでなくレイクセブあたりからも奨学金への応募があり、その選
考に当たっては、スタッフが交通不便な山の村一軒一軒を訪ねて面接をしています。

 現地法人であるMCLと、現地組織CMBやPFPを通じて支援してきた私たちHANDSとはシステ
ムが異なりますが、教育支援の面でたくさんヒントをいただきました。P1で触れたように、
HANDSの現地事務所を開設できれば、皆さんのご支援を最大限に生かす奨学金制度に向け
て、改善が可能になると思います。今後はMCLとゆるやかなネットワークを築いていきたいと
考えています。



アセアン貿易フェア(ダバオ市)出展報告

 2006年1月13日から22日まで、ダバオ市のSMショッピングモール内展示場にてアセアン貿易
フェアが開催されました。私たちは18、19日に見に行ってきました。ミンダナオ中のさまざまな
団体が出展していましたが、レイクセブからはCOWHEDが選ばれたのです。

 参加団体はそれぞれ小さなブースを与えられます。COWHEDのブースは手工芸品でいっぱ
いになりました。(注:ブースは全部で40ほどあり、そのうち10ブースがアクセサリー類を扱って
いました。その他はドール等の大資本企業や、高級家具を扱っており、富裕層向けや輸出を
行っている業者でした)

 私は展示場の中を歩き回り、特にCOWHEDの手工芸品と同じ物を置いているブースに注目
しました。同じティナラク織から作られた商品も、他のブースでは飾りが加えられ、COWHEDの
物より見栄えが良くなっています。それで何故COWHEDの物があまり良く売れず、収入も少な
いのかわかりました。

 COWHEDの販売スタッフは「最も良く売れるのはビーズ製品」と言っていました。ネックレス、
ブレスレット、アンクレットやイヤリングです。ただ色の組み合わせの良くない商品もあり、人目
を惹きつけないと感じました。また買う人は値引きを要求します。ある女性が200ペソのネック
レスを150ペソで売ってくれないかと交渉してきました。スタッフは「180ペソなら」と言ったのです
が、その女性は150ペソ以上出せないと言いはりました。私はスタッフを助けて何故大きな値引
きができないのか説明しましたが、その女性は購入しませんでした。

 販売スタッフはアセアン代表団来訪などの特別な時以外は、じろじろ見られるのが嫌で、チ
ボリの民族衣装を着用していませんでした。彼女たちが民族衣装を着た方が、人を惹きつけ、
売上も上がると思いましたが、この点に関しては、COWHEDと話し合う必要を感じました。
 (現地ボランティア・ビンビンさんによる報告)



ビラーンの織物「ナバル・タビ」

 チボリ民族の女性組合COWHEDを支援して以来、アバカの繊維を糸にし、植物の根や葉を染料にして糸を先染めし、織られたティナラク織とその製品の販売促進を私たちHANDSは行っています。
 ティナラク織はチボリ民族の伝統織物ですが、南ミンダナオ地域を代表する特産品としてフィリピン国内のみならず、欧米にも知られています。

 ビラーン民族にも同じ織物の伝統がありますが、ビラーン民族が、民族内だけでこの伝統織物を守ってきたので、外部に知られることも無く、又、若い人にも伝わらずにきました。熟練織り手は現在70代の4名で、そのほかに基礎を知っているのが4名だけです。「ナバル・タビ」と呼ばれるこの織物は、天使の知恵によって導かれた模様を織り出すと言われ、織ることができるのは、夢の意味を解釈できる女性だけです。最近ポロモロック町観光局がこの伝統織物が絶えることの無い様にと、行政にも働きかけ、伝統保存、販売促進を促し、また若い人に伝えようと、ビラーン民族のハイスクールの授業で採り入れられるようになりました。
 
 
 「ナバル・タビ」はティナラク織より模様が非常に細かく、色も渋く日本の「わび、さび」の世界
を感じます。ビラーン民族の伝統を守るのに、私達も役に立てればと思います。



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