ビラーンの医療と自立を支える会(HANDS)


現地報告 ビラーン通信46号より

キアヘにも簡易水道開通! <松尾建設基金事業>

 マラパタン町キナムバランガイのキアミとシラルの二つのコミュニティーにはHANDSの助成金
事業で簡易水道があります。しかし隣接するキアヘには、水不足に起因する病気が多いだけ
でなく、乾季には農作物が枯れるなどして生活は困窮し、村を出て州都アラベルやジェネラル
サントスで職探しをする住民が増えました。学校を出ていない住民に仕事はなく、村に戻っても
荒れはてた畑の生産性は低く、盗みが横行し、治安悪化が懸念されていました。
 このように水道建設への強いニーズがあったところへ、3km先に 9-12秒/ガロンという40世帯のために十分な水源が見つかり、あとは資金があれば…という状況にありました。
 幸い、形が残る意義ある事業にと昨年5月にご寄附いただいた松尾基金を利用することで、支援を即決することができました。
 CMBのキアミ分校と同じく、キアヘに至るには、蛇行する河川を30回以上トラックで横切らなければなりません。水道の主たる資材であるパイプとセメントを運ぶだけで多くの日数を費やし、この5月にようやく完成しました。これまでも巡回診療や衛生指導、薬草利用講習などのヘルスプログラムを通じて消化器系疾患の減少に努めましたが、きれいな飲料水を得たことで、これらのHANDS医療支援、衛生指導も効果が出ると期待されます。
 












     竣工式のあと、貯水槽の前で

ラムアフス小学校校舎建設(ラムブソンコミュニティー)

 1年前の会報で設計図を紹介したラムアフスの教室は、
この7月26日、ラムブソンのフィエスタとともに竣工を祝うこ
とになりました。ふもとから急斜面を人力または馬で資材を
運ばなければならない地域で、雨季には全く仕事になら
ず、作業が遅れていました。
 すでに新学期が始まり、合計122名の入学手続きを済ま
せた子どもたちが、新築の校舎の一部を使って授業を受
けています。今年度もマリオ先生(5、6年担当)、テルマ先生
(3、4年生担当)、セリア先生(1、2年担当)と、教師1人が2
学年ずつ受け持ちます。校舎ができあがれば学年毎に分
かれて授業や自習ができます。 
 












馬で木材を運ぶ



<実施予定のプロジェクト紹介>
先住民族の残された聖域、原生林が危ない
 − 急がれるブハンガン、ブロコン地区の生活と森を守る事業 −










焼け焦げた樹木が散見される
ブハンガン村山腹
   PFP事務局から約2時間、車が急に止まったので前方を覗うと、大
きな丸太が道をふさぎ、銃を持った若者が何か言っています。これ
から先は私有地だから通るなということのようです。先祖伝来の土地
保証(CADC)を受けた土地なのに、国会議員にコネがある地元の有
力者がコーヒープランテーションを始めたと聞きました。この丸太が
その農場入り口でした。通り抜けた先にある原生林を守る事業地視
察のためで、バランガイキャプテンの許可を得ていると説明しても通
じません。Uターンして自宅にいたキャプテンを車に乗せ、交渉を再
開。ようやく丸太が取り除かれ車が動き出しました。40分間のロスで
した。
 人里離れており、住民も少なかったブハンガンの人口
が、ここ数年のうちに急増し、50世帯ほどになりました。同
じドグマ山系でもアクセスの比較的よい地域に住んでいた
チボリやマノボが、入植者や農園開発業者に土地を奪わ
れ、身内を頼って移り住んできたからです。一番近い学校
(ブラクール小学校)まで歩いて3時間というブハンガン。原
生林が残り、サルやそれを狙う大鷲の狩を見ることができ
ます。野生動物の宝庫と言われているこの地域が、他に
生活手段を持たない先住民族の焼畑で危機にさらされて
います。森が壊滅しないうちにと、隣接のブロコン地区を含
めて75haでアグロフォレストリーを核とする事業を予定して
います。 (緑の募金公募事業申請中)
 










持続可能な農業とアグロフォレストリの
説明に集まった住民

ビラーンの伝統織物・ナバルタビ振興事業 − ナバルタビ工房建設プロジェクト −











ナバルタビのスカートで踊るビラーン民族
の少女(キブラワン・ビラーンフェスティバルで)
   去る6月に南ダバオ州キブラワンで開催された第1回
ビラーンフェスティバルに参加した元奨学生スヌーリア
から、「アムグオのナバルタビが評価されて嬉しい。祭り
のあとで16のコミュニティーの首長からシャツやズボン
の注文を受けた」という報告がありました。このフェスタ
には、コロナダルに駐在の相田も参加しており、写真が
届きました。そのアムグオのナバルタビ工房が5月の突
風で大破したため、HANDSとして織りの家建設プロジェ
クトを支援することにしました。日本でも会員や市民の
皆さんから、帯にしたいという注文を受けております。床
は竹製、壁面は下部をブロック積みにした工房(6m×
14m、経費20万円)の完成が待たれます。


<モンゴカヨから> 山頂の集落   相田陽子

 6月27日、チボリ町モンゴカヨの巡回診療に同行しました。国道から脇道へ入り1時間程のバ
サグという集落で車を降ります。目指すはあの木、という目標の木は、はるかかなたの山の頂
上ですが、向かって行くしかありません。

 登り始めたのは午後5時半。途中から暗くなり、足元は全然見えません。CMB事務所でボラ
ンティアとして働いているロレットが手を繋いでくれて、一緒に登りました。前日からの雨でぬか
るんでいて、お互い交互に泥に足を取られ、悲鳴を上げ、何度も転びながら足を運びました。
それでも蛍が飛び交う中、暗いながらも山々の輪郭が浮かび、大自然の中にいる心地良さは
苦労を半減させてくれます。ようやくモンゴカヨの集落へたどり着き、夕食など食べなくていい、
すぐ寝たいと思っていましたが、チボリダンスの出迎えに、私も踊りたくなる気分になり、疲れ
はどこかへ行ってしまいました。音楽の効用を再認識しました。

 スタッフハウスからは、ジェネラルサントスの町の灯りが見下ろせます。朝にはサランガニ湾
も小さく見えました。本当に高い所へやってきたのだとわかります。このような高地へ住処を移
さねばならなかった事情を考えると、胸が痛みます。今もほとんどチボリ民族だけの集落で、
文化も伝統も手付かずに残っているということですが、それだけこの集落への往来が簡単では
ないことを示しています。

巡回診療
 今回の巡回診療は、開業内科医のカガピ先生、この先生の奨学金により看護学を学んでい
る男子2名、女子4名の学生、そして開業歯科医のマドリッドご夫妻が担当です(写真右)。学生
たちが受付を担当し、名前と年齢を聞き、体温や血圧を測ってカルテに記入し、医師の診察に
なります。

 一人結核の疑いのある女性がいました。集落担当のヘルスワーカーに伝え、検査して結核
が確認されると、6ヶ月間の治療薬の無料支給の手続きをしてもらえます。結核は早期に発
見、治療して、感染を防がなければなりません。しかし、住民は医師に診てもらうお金がなく、2
年に1回の無料巡回診療でしか診察の機会がないのが現実です。

モンゴカヨの子どもたち
 私は子どもたちと遊ぶ機会がありました。新聞紙で作った風船を準備してきたので、それを
投げ合いました。風船は原型を留めず、丸めた新聞紙になり、それがちぎれて小さな紙切れ
になっても、投げては受け取りを繰り返します。私は疲れてやめたいと思ってもやめさせてくれ
ません。

 翌朝、子どもの一人が私に向って「ベニベニ」という言葉を盛んに発します。何だろうと思案し
ていましたが、フィリピノ語で先生に対する呼称だと思い出しました。ただ一緒にボール(?) 遊
びをしただけなのに、先生と思っているとは。こういう時に一緒に遊んで、いろいろな遊びを教
えてあげられる、幼児教育専攻の人がいればと思いました。
 モンゴカヨには小学校がなく、学校へ行くには麓まで行かなければならないと知って驚きまし
た。2時間もかかって登ってきた山道を、毎日行き来するのです。子どもたちの苦労は想像に
絶します。

健康・衛生セミナー
 ヘルス担当のジョジョとリジャの仕事は昼間のフリークリニックで終わりではありません。夜は
健康・衛生に関するセミナーを行いました。女性は40名程、男性も15名程出席しました。
 翌朝、教会で、私の隣に座った壁際の女性が、1歳半位の子に壁に向って用を足させようと
します。外でするように言おうと思いましたが、その女性が英語が分からなければ、誤解される
可能性もあるだろうと、言わないでしまいました。ところが子どもとはいえかなりの量で、その子
どもの足を濡らし、後ろへ後ろへと流れていきます。後でジョジョに話すと「衛生セミナーをして
も何の意味もない」と嘆きました。衛生知識を持ち、実行してもらうには、時間をかけていくしか
ないようです。



<ティナラク・フェスティバル>

 7月13日から18日まで、南コタバト州の州都であるコロナダル市(マーベル)で第7回ティナラク・フェスティバルが、今年は南コタバト州制40周年記念ということで、盛大に行われました。
 初日はパレードで始まり、各町の山車には、ティナラク織がふんだんに使われていました。最終日にもパレードがあり、これはコンテストでした。1グループ80名以上150名以下という参加者数制限があり、ビラーン、チボリ、マギンダナオ民族の伝統的音楽、踊り、衣装を基本に、統一性、芸術性を競いました。先住民族の伝統文化を評価し、積極的に観光資源として活用しようという表れです。 
 
ティナラク織を手にしたパレード
 各町ごとの伝統的竹の家のコンテストもあり、期間中、それぞれの特産品を販売しました。レ
イクセブの竹の家では、COWHEDもティナラク織、ビーズ製品を販売し、マニラからの引き合い
もありました。
 ティナラク織といえばレイクセブが有名です。早い時期に現地に入ったミッションSCMがその
継承に努め、日本のNGOや町も支援し、組織的に若い人に織の技術が伝わるようになった結
果です。
 同じアバカの繊維の織物でも、ビラーン民族のナバルタビは途絶えようとしていますが、保存
継承のため私たちも支援を始めました。ナバルタビと言えばアムグオ、と誰でもが認識できる
ようになって欲しい、そしてそれを私たちが手伝えることは、大変価値のあることだと、今回の
フェスティバルを体験して強く感じました。



<縫製研修>

 女性組合COWHEDを支援する為、ティナラク織、又その製品の販売促進を図っていますが、
簡単な小銭入れなどを除いて、組合員には縫製ができる人がおらず外注しています。前々か
ら、この点を改善したいと思っていました。
 南コタバト州の事業で、女性の就業を助けるため、洋裁講座やバッグ作製講座が無料で実
施されていることがわかりました。7月5日から18日間の洋裁講座があり、組合員のバーバラさ
んが事務所を宿泊場所にして受講することになり、私も一緒に参加しています。
 会報36号プロジェクト写真報告で、ティナラク織りベストを縫って夫の学費に当てていると紹介
されています。
 事務所から歩けば25分ほどのトレーニングセンターには、1997年にJICAから寄付された日
本製の業務用ミシンが50台並んでいます。
 毎回20名以上の参加があるそうですが、今回は12名のみです。バーバラさんを除き、仕事に
活かそうという参加者はいないので、あまり熱心ではありません。遅刻、欠席が多く、半数程の
出席しかない日もあります。足並みが揃わないので計画通り進まず、バーバラさんも私も物足
りなく感じています。早く洋裁講座が終わりバッグ作製講座が始まってほしいと思っています。
バーバラさんが質の良い製品を作れるようになり、私はデザイン面でみなさまの要望に応えら
れるように、二人して頑張っていきたいと思います。



ブラクール村近況

<ハイスクール生徒数が増えました>  今年のブラクール小学校、ハイスクールの入学・
進級登録が無事終了しました。それぞれ、147人と90人で、合計237人がブラクールで学んでい
ます。授業料は無料のはずの周辺公立ハイスクールが、各種教材費の値上げを父母に要求
したことから、遠くてもブラクールを選ぶ子どもが増えました。なお、HANDS会員が支援してい
る特定の奨学生/里子(合計20人)もそれぞれ無事進級しました。子どもの現況報告は8月末ま
でに関係の皆様にお届けする予定です。

<また1人手遅れで死亡>  一方で、奨学生候補だったロミオ君(10歳3年生)について、破
傷風のために死亡したという報告を受けました。昨年7月の2年生の男児と同じく、お金がなくて
病院に運んだ時は手遅れだったケースです。今後同じような犠牲者を増やさないために、せめ
てブラクール小学校児童については、対応策をPFPと検討したいと思います。

<自主財源としてのバナナ栽培>  当会の支援金は昨年のまま現状維持(月35千円)で、
小学校教師5人分の給与を支えていますが、諸物価急騰の折、追加財源としてアグロフォレス
トリーで植えたバナナに期待が集まっています。自家消費を超える収穫が可能になり学校経費
に充当できる予定です。



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