ビラーンの医療と自立を支える会(HANDS)


現地報告 ビラーン通信48号より

ビラーンの苦境に善処を! −CMIPディレクターによるアロヨ大統領への嘆願書−

 昨年秋の訪問時に聞いたサムラング周辺の土地問題のその後が気になっていたところ、1
月16日付けでファーディ神父からメールが届きました。
 神父や住民代表による関係政府機関(*注)への訴えだけではらちがあかず、11日にはそ
れらの出先機関があるコロナダル市で住民89人がデモをしたと書いてありました。問題の経緯
や背景が分かる文書も添付されており、セブ島でのアセアン・サミットを控えたアロヨ大統領あ
ての請願書(1月2日付け)のコピーもありました。土地を奪わないで!の住民の悲痛な叫びを
なんとしても届けたいという、自身ビラーン人であるファーディ神父の必至さが伝わってきまし
た。 サムラングを含むバランガイ・ビラーン住民(400世帯)の土地587ヘクタールが、実は
ゼネラルサントス在住の企業家メフォラダ氏(以下M氏)の所有になっている事実、そして、それをM氏は農地改革法に基づいて、政府に売却しようとしている(Voluntary Offer to Sell/以下VOS)という事態を住民が知ったのは、半年前の昨年8月のことでした。

 今住んでいる土地が自分のものでなくなる。取り戻すには、
農地改革法の定めに従って、30年間政府にローンを払い続けなければならない。

 住民のショックは大変なものでした。
 
ファーディ神父(左)とサムラング住民
HANDSが支援したクリニックも保育園もその587ヘクタールに含まれています。今になってな
ぜ?私たちにとっても思いがけない事態に届いた資料を読み返してみました。

<現時点で把握している経緯>
  1) 1966年に、M氏は借地料年400ペソで放牧用地587ha借用
     (長老7名が契約書に拇印を押す)
  2) 1991年、25年の借地契約満了でM氏村を去る
  3) 2006年8月、M氏は農地改革省(DAR)に対して、法律に基づき(10ヘクタールを超える
    土地は政府が買い上げて土地なし農民に、30年ローンで払い下げる)、土地譲り渡し
    (VOS)を申し出た

 M氏が村を去った1991年から2006年までの空白の15年間に土地登記を進めて、関係政府
機関からそれぞれ承認を受けたようです。法的所有者として認められているだけでなく、その
土地は農地改革対象区域内にあり、M氏のVOSは有効との判断が下されているのが現状で
す。
 HANDSとしては、今後とも事態の推移を見守りながら、何ができるかを考えていきたいと思
いますが、まず、今回のメールにあった弁護士経費に対する支援要請にこたえられたらと考え
ています。本問題に限らず、弁護士を雇えない先住民族は泣き寝入りせざるを得ないケース
が多いようです。皆様のご理解と協力をお願いいたします。
       *注:先祖伝来の土地保証(CADC)を省令で決める環境天然資源省(DENR)、先住民族の権利法を
            実施する先住民族国家委員会(NCIP)、農地改革省(DAR)等



パグナイ・アグロフォレストリ・プロジェクト ― イオン環境財団助成事業 ―

 本事業はダグマ山系の村で実施されており、20ヘクタールのアグロフォレストリーと、10ヘク
タールの植林が目的です。後者は山腹の急斜面が対象で、地滑りや土壌浸食の危険が迫っ
ている地域です。村の共有地のため、作業は住民全体で行います。

 アグロフォレストリーは、傾斜地農法と収入向上に意欲的な20名が対象となりました。共用す
る水牛と鋤も購入しました。間作のピーナッツと陸稲は8月に最初の収穫があり、ピーナッツは
豊作で販売もできました。10月には接木済み果樹苗とココやしが植栽予定地に運ばれました。
車が通れず、パグナイ中心部から約3kmの道を村人総出で2日間かけて運んだのです。

 終了予定の3月末にはすべての植栽作業が完了し、一部で苗木の周囲1m範囲の草刈、追
肥など第1回の手入れが実施される予定です。

 *イオン環境財団から3年間助成をいただき、先住民族が森と生活を取り戻す上で価値ある実績を残すことができ
ました。なお、当会は連絡窓口として申請・モニター・報告作業に関わりましたが、助成はPFPとの直接契約であり、
HANDS事業収支には含まれていません。



5年後の実り ― サキン一家のサクセスストーリー ―

  これはFOT(少数民族里親の会)とPFPの協働による2001年度のアグロフォレストリー受益
者の1人モリス・サキンさんの事例です。

 一家の以前の生業は山腹のわずかなコーン栽培と炭焼きだけで、現金収入は極めて少なく
不安定でした。事業開始から5年が経過し、ようやく成果を享受できるようになりました。妻も子
どもたちも自分の畑で取れたマンゴーやランブタンを食べられる幸せをかみしめています。果
樹の間に植えたバナナ、サツマイモ、豆などによる収入は週平均600ペソにもなります。特にバ
ナナは毎週100kgも市場に出しています。今年からはマンゴーもたくさん実をつけるようにな
り、甘みも増して市場に出せるでしょう。

 収入の面だけでなくモリスさんが事業で得たものは、等高線耕作で土壌浸食を防ぐ傾斜地農
法の有効性です。人間が生き続けるには生態系に配慮することの重要性に目覚めたとのこと
でした。



ブラクール村の教育 伝統文化継承と公立校並みの教育内容を

 2006年11月初めの陸稲の収穫が終わった頃、ブラクール村のフィエスタ(村祭り)写真報告が
届きました。夜明け前のたいまつ行列から始まり、燃えさかる炎を囲んで捧げられる長老の祈
り、民族楽器の演奏、マロンを自在に使って舞うマノボダンス、チボリダンス。報告するPFPス
タッフの感動が伝わってきました。祭りを通して民族文化はしっかり継承されているようです。
一方で、新調するお金がないためもあり、日常生活の中に民族衣装姿をみる機会は減ってい
ます。

 教育現場でも民族の伝統文化への誇りと継承は重要視されていますが、同時に教師たちの
関心は、卒業後町にでる子どもたちの戸惑いを減らすことに向けられています。教育内容を公
立学校並みにしたいと思っています。

 昨年度のクリスマスプレゼントは社会見学費用やビデオ教材購入に当てられました。百聞は
一見にしかず。身近なはずの自然破壊も映像により初めて理解できました。これら視聴覚教
材の一層の充実とバッテリー・ソーラー充電器、改訂版の教科書、職業科の教材整備で学習
効果をあげたいというのが教師・住民の願いです。このニーズに応えるため助成金を申請中で
す。


卒業生近況

教師として、姉として − 寮母ロウエンダ −
 キアミで補助教員をした後、教師再教育事業(NIA助成)により念願のカレッジ卒業資格を取得したロウエンダ(右)。現在はミアソン寮でハイスクール奨学生38名のよき相談相手になっています。勤勉な先輩の懸命さに寮生もよく応えて、子どもたちの学校での評価は学力・行動とも上々と聞きました。 
 
村に残ることを決めたエリザベス
 3月卒業後の半年間、ジョジョに同行して山の巡回診療を手伝っていたエリザベス。ボランテ
ィア期間を終えた11月時点では海外就労も選択肢に入れていました。ジョジョの片腕だったリ
ジャが怪我で職場を離れた今、看護助手コース卒のエリザベスは、助産師コース卒の先輩ビ
ーナとともに村に必要な人材です。そんな話をした翌朝「やはり村に残ります」と言ってくれまし
た。定期医療支援から捻出する給与は少額ですが、がんばってほしいものです。

ボニファシオと「果樹苗育成とモデル農場プロジェクト」

大切な果樹の苗床と
   3月にMSUを卒業したボニファシオの専攻は農業ビジネス。小学校高学年から支援してきたHANDSにとっても待ちに待った彼の卒業でした。
 ボランティア期間を終えた11月初め、彼から申請書が届きました。マンゴー他5種の果樹苗を種子から育てて、キアミとバサグのモデル農場で栽培技術を教えるという小規模事業です。
 ボニファシオにはアグロフォレストリーの実績があるPFPでの研修を勧めたことがありますが、現地NGO間の技術移転はこちらが思うほど簡単ではないようで実現していません。しかし、学生時代を通じて終始誠実で勤勉な彼に賭けてみることにしました。指導者手当も予算化しています。対象地域住民だけでなく、大変貧しい彼の家族への支援になります。



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